シーナボン療法

去年の秋から年末にかけて俺を襲った「元気無い無い病」。この病は結構厄介で、ナニをするにも気力が起きず、ナニをしてても周りが気になり、俺の集中力を著しく低下させるという病気だった。ツライんだかツラクナイんだかもよくわかんない意識の低下。

そのダメージが特に顕著だったのが、「本が読めない」という症状。いや、読めない、というか、「読み進めない」ってのが正しい言い方かな。字を追って読むことは読むんだけど、全然アタマの中にその字が入ってこない。なので、1ページ読んで次のページめくるんだけど、めくったとたんに前のページに書いてあったことをすっかり忘れ、何が書いてあったかと気になってまた1ページ戻って読み直す。これの繰り返し。40分の電車通勤時間に雑誌1ページしか読めなかったときとかあった。それでも内容あやふや感。

めったに本読んだりするほうじゃないんだけど、それでも本読めないカラダになるなんて怖くって、本を昔みたいに読めるように「リハビリ」に取り込むことにした。で、家にある本、きちんとした字のある本って小難しいSF小説ばっかだったので、ちょっとリラックスできる、チカラ抜いて読める本読みたいなー、と思って本探したのね。あー、夏も近いし、海とか南の島とか旅行する話とかいいなー、と思って本屋に行って手に取ったのが、椎名誠(シーナさん)の島旅エッセイ、「風のかなたのひみつ島 (Amazon)」と「波のむこうのかくれ島 (Amazon)」。

シーナさんの名前は知ってた。それもかなり昔から。ビジュアルもTV、雑誌なんかで見たこともあった。でも、どんな本書いてるのかなんて全然。

何気無く手に取ったんだけど、文庫なのに紙質が違うのに気が付いた。この本と2冊とも、著者、シーナさんといっしょに写真家のタルケンさんも同行し、話の場面場面のカラー写真も収められてる。コレがまたエラくキレイで迫力あって、ヒトはみんな楽しそうで著者一行は気持ち良さそうなシーンがギッシリつまってる。この写真のイメージから内容もなんとなくイメージしつつ2冊をレジに。

読んですぐに気が付いたのが、「ああ、今、読みたかった本ってまさにコレだ。」というジャストミート感。シーナさんが日本の外れの島々を旅して現地の人々にふれあい、その土地の風土や文化をものごし柔らかい言葉で表現しつつ、独特の目で見た考察がこれがまた飾らず、いい感じでチカラが抜けていい。「力み」が全くもって感じられない文体が読み手の肩のチカラをもスッと抜いてくれる。

これまた、「リハビリ」に最適な本にめぐりあったものだなあー。
(もう既に影響されてシーナさん口調の俺)

読んでるとほんとに自分が旅に同行しているかのような気分にさせてくれるのが魅力かな。その現地の子供たちと話してる気分になり、獲れたてカツオ(カチュー)の刺身を頬張り、ビールをグビーッといく瞬間がノドに伝わり、海辺の焚き火の傍らで寝転がり、顔に感じる海風のやさしさであったり。

シーナさんお得意の「ペース」がまたこの旅の癒しをプラスしてるなあ。ナニに付けても最終的には「まあいいか。」で締めくくる。ビール飲んで昼寝するときは決まって、「申し訳無い申し訳無いと思いつつ」結局寝ちゃう。唯一、旅の中で本気で取り組むのは、拾った浮き球と角材でやる「砂浜の三角ベース」だけ。

「字を読む練習の本」だったはずが、思いがけないところで「新しい楽しみの1つ」に。ページをめくるペースが1日1日増えていってるのは、「元気無い無い病が治ってきてる」のか、はたまた、「シーナワールドにどっぷり浸かってしまった」からか。

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